革命

若菜さんや月さんと話す時のような穏やかで丁寧な喋り方も本来の自分であるし、イブやリトと話す時のような荒っぽく粗野な喋り方も本来の自分。別にこれ、どっちも素っちゃあ素なのよ。両極端な人間なのは自分が一番自覚していることでもある。俺に対して偏った一方的な見方しか出来ない奴は、俺のことを何も解っていない。そういう奴は信用できないしする必要もない。

若菜さんとは短期間どころか短時間しか会ってないから、ほとんど想像というか妄想の話でしかないんだけど、あのわずかな時間の中でさえ俺はやっぱり普通ではない何かを感じてた。最初から時が止まって光って見えるとかいう超常現象からスタートしてるからな。向こうもこれは普通じゃないと気づいて俺と目が合わせられなくなったんだろう。あれは明らかに不自然だった。遠回しにもっとこの職場にいられないのかという話をしている時の言い淀み方。質問されたから答えてんのに、何で質問した方が動揺してんだよ。

5歳も下の女の子を素直にさん付けで呼びたいと思えるのも初めてかも知れない。仲良くなってもちゃん付けにはならない感じ。最初から自然な形でのリスペクトが彼女に対してある。何かこう、粗野に扱うことが有り得ないっていうか、ケンカするイメージが湧かない。俺は基本的に気が短いし、おかしいことにはおかしいとハッキリ言うし、約束事や決まり事にうるさいし、時間にも厳密だから、人とケンカになって揉めるのは日常茶飯事なんだけど、何かこう若菜さんだけはケンカして揉めるイメージがないのよね。不思議。そんなこと不可能なんだけどね、経験上。

ケンカするほど仲がいいってのと、ケンカしないから仲がいいってのは、どっちが本当なんだろうな。ケンカするってことはそれだけ言いたいことを本音で言ってるんだろうし、ケンカしないってことは当然我慢してる訳よね。許容範囲内の我慢だから仲の良さに亀裂が入らないってことかい。俺の友達は大きいケンカもちょっとしたケンカもほとんどしないけど、少なからずイライラすることはあって、でも許容の範囲内って感じかな。だから長く関係が続いてる。イラついて許容の範囲外になった連中は一人残らず縁を切りました。二度と会うつもりはありません。

別にあえてケンカする必要はないからね。我慢して我慢して大噴火ドーン!も面倒だけどさ。結局、その辺のバランスが相性なんだよねぇ。許せない奴と無理に付き合うことはない。許せる奴とだけ付き合えばいい。

若菜さんレベルになると、穏やかさ丁寧さを遥かに通り越して、だっこしたくてしょうがない。早く俺の膝の上にのりなよって感じ。可愛い子供をだっこする時と同じ気持ちでいられる。イブとか他の女でも想像してみたけど、他の奴は無理。月さんでも無理。そんな気持ちになれる訳がないんだよ普通は。何だよだっこって。

あの子と話すと言葉遣いがとても丁寧になる。あの子も丁寧だけどね。日本語で一番わかりやすく丁寧にするのって「お」をつけることじゃない。お水、お風呂、お昼とか。何かね、あの子と話すと自分もどんどんそういう口調になる。もうほんとは女に生まれたかったってくらいの人間だからね自分も。ただ男は丁寧に品よく話すほど不自然になるから嫌なんだよな。何かもうあの子と話すと自分が小さい子供と話してる時のような気分になるから、どんどん言葉遣いが丁寧でやわらかくなるんだよね。大人の女性でこんな気持ちになれる人が存在するなんて思わなかった。革命ですよ、すべてが引っ繰り返る。