名前が呼びやす過ぎる

若菜さん(何度でも言うが本名ではない)の名前の呼びやすさは異常。三文字の言葉でこんなに呼びやすい名前って他にあんのレベル。禍根の女と同じ読みだから最初は絶句したけど、いつの間にか信じられないほど口に出すことに馴染んでしまった。なぜだろう。やっぱり運命の人だからだろうか。

それに比べてマコ(これも本名ではない)はやや言いにくい名前。若菜さんと最初の音は同じ。でも二文字。とても柔和な名前だと思う。可愛らしいといってもいい。

若菜さん、マコ、因縁の女、禍根の女、こいつらみんな名前が似通ってんだよな。最初の音がみんな同じ。ほんと不思議。人生のすべてが運命どおりなら不思議でも何でもないが。

それに比べて俺の名前は特殊すぎて、今まで一度も被ったことがないどころか似通った名前の人さえただの一人もいなかった。このご時世ですから少しは他人と被る方が個人情報を守る意味ではいいような気もしますね。そもそも俺の漢字を正確に読める人間がいないしな。読みも特殊だから。人間も特殊なら名前も特殊ってか。名は体を表す。なるほどね。

若菜さんの名前があまりにも言いやすいから、マコのことを考えている時も呟く名が若菜さんなのはマコに申し訳なく感じる。別に付き合ってる訳じゃないから、不義理でもなんでもないんだけどさ。このままだとマコともし付き合うことになっても、若菜さんの代わりでしかないもどかしさ。どうして二人の人を同時に愛してはいけないんだろう。マコにはマコにしかない良さがある。若菜さんがどれだけ素晴らしい女の子で、マコがどれだけ不完全な女の子だったとしても、好きなもんは好きだし、気になるもんは気になる。そのこと自体は責められるもんでも、咎められるもんでもない。付き合った途端に他の異性が揃いもそろってジャガイモに見える訳じゃないからね。結婚したってそうだ。

もうこのまま誰とも親密にならないまま、ただ一人朽ち果てるのを待つ方がいいのだろうか。俺の人生にいいことなんて一つもなかった。一度くらい人を心から愛したかった。心から愛されたかった。

心なしか心ないことを思う。私に心を教えてくれる人がいなかったから。

心ない言葉に心は打ち砕かれたまま。誰も私に心を与えてくれなかったから。