かけっこ

語る思い出が増えるほど、人は今この瞬間を全うしなくなる。

あの時はこうだった、幸せだった、今はそうじゃない、不幸しかない。

比較対象のサンプルが増えれば、それと現在を比べずにはいられなくなる。

常に今しか生きられないというのに、記憶に後ろ髪を引かれ、前を見ない。

思い出は、全てをやり終えた後の楽しみに取っておけばいい。

無邪気に駆ける幼子のように、前だけ向いて走り抜けろ。