まだ人を信じていたころ

この男にもまだ、人を信じていたころがあった。

過酷な流れ、時代の風雪に吹かれ、精神の大地はひび割れ、いつしかすべてを失っていた。

人も、人を信じる心も失った。

なにもかもを失い、身一つとなった。

また人を信じていたころに戻れるのか。

男にただ一つわかっていたのは、これから先も前にいくしかないのだということ。

道は前にしか存在せず、過去の道は粉塵となり消えていく。

引き返せない。

やり直せない。

男は知っていた。死ぬまで進むことのくり返しなのだと。

淡雪のような希望だけが、男の歩みを進ませる。

いつかたどりつく、そう遠くない未来へと向かって。