類推のたぐい

自分と他人を並べて見た時、きっと同じような経験はいくらでもあるだろう。

けれども、それについて全く同じ感情を抱くことはない。

それなのに、私たちは往々にして全く同じことを感じていると思い込んでいる。

類推とは時に、途方もない齟齬や乖離を生むと知らずに。

自分が出来るからといって、相手が同じように出来るとは限らない。

だから自称苦労人は平気な顔をして言うのだ、「もっと頑張れ」と。

特に病を抱えている人間に対して「もっと頑張れ」と言うのは、「もう死ね」と言っているのと何ら変わりない。

もうこれ以上は頑張れない地点から「もっと頑張った」から病気になるのであって、ただ初めから怠けている人間は、心を病むこともない。

発言には気を付けることだ。

繰り返す、発言には気を付けることだ。

能力も、知能も、体力も、個々のキャパシティはそれぞれ違う。

違うのに全く同じことが出来ると思い込むのは、狂気の沙汰である。

人は自分の経験を敷衍することでしか、本当の意味で理解は出来ていない。

他人の経験については、自己の似たような事柄から類推しているに過ぎない。

似たようなものは、あくまで似たようなものでしかないのだから。

真実は個々の胸の内にしか存在せず、誰もそれに触れることは出来ない。