月を亡くした王は、何も望めなくなった

もしも願いが叶うなら、いくつでも叶いますようにというのはベタすぎるけど。

でもせこい神様が一つしか叶えてくれないなら、別にいいやって気もする。

まぁ、それでもしいて言うなら、私という人間が初めから存在しなかったことにしてくれって願いになるかねぇ。

この私でさえ、死ねば悲しむ人がいるというのも事実なのだ。

なので、初めから存在しなかったことに・・・というのが一番いいかなぁ。

誰に見送られることもなく、誰に見守られることもなく、ひっそりとこの世界から消えていく。永遠に思い出されることはなく、永劫に語られることもない。

それでいいんじゃないかな。

願いが一つ叶った程度じゃ、幸せになんてなれないから。

金が100億あったって、別にそれは幸せとは関係ないから。

無口な物質に囲まれたって、私が失った人たちは返ってこないから。

砂浜に書いた幸せの文字は、いつでも悲しみの波が攫っていく。

私が生まれる前にたった一つ願ったことが、この世に生まれてきたいだったとしたら、こんなに皮肉なことはない。

やっぱり願いなんて叶うもんじゃないね。

一つ願いが叶えば、どこかに悲しみが一つ生まれる。それがこの世のバランスだ。

悲しみが一つ生まれても、誰かの願いは叶わない。

幸せになれる者の席の数は決まっている。誰かが坐れば、誰かが溢れる。

不条理で不合理で、何の救いもない世界だよ。