知らなくていいことを、知ってしまうと。
見なくていいことを、見てしまうと。
聞かなくていいことを、聞いてしまうと。
――――現実が突き付ける冷酷さには、身震いさえする。
思い出を美しいままにしておくには、二度と会わない方がいいのかも知れない。
私はずっとそれを、心の奥で望んでいたのかもな。
念入りに包み込んで、引き出しの陰に仕舞い込んでしまった方がいいと。
美しい思い出が無ければ、人は生きていけない。
振り返った時に今までの道程が、ただの空白であったなら・・・。
一体人生とは何なのだと、思わずには居られないだろう。
老いてなお光を放つものが、人生のどこかに点在していて欲しい。
年月を経て薄汚れた自分を知っても、美しい何かは残っていて欲しい。
そう願うことは、愚かだろうか。
世界中の誰もが認めずとも、私は自分にそれを許そう。