私の分まで、幸せになりなさい

ようやく繋げた手を、こんなに早く離したのは。

やっぱり、私も本気じゃなかったんだな。

「今まで人を好きになったことがなくて、好きという気持ちがよく解らないんです」って言われた時に、自分も向こうと何ら変わらない想いを抱えながら接していたんだなって、改めて気付いて。

確かに今まで何人も好きになったけど、それは単に容姿や性格の良さによるもので、本気でも何でもなかった。

あの子は、他の子とは一線を画する存在だったこともあって、今にして考えれば多分に思い込みかも知れないけど、大分のめり込んだ。

というのも・・・矮小な私は、人を減点方式で採点する癖があり。

持ち点100で、気に食わない部分があると減点していく。

加点はない。減っていくのみ。

あの子は、100点だった。

ただの1つも、気に食わない部分がない。

こんな完全な存在がいるのか・・・次第に私の中で、神格化されていった。

数回のデートで、私は一生分の幸福量を使い切ってしまったのではないか・・・と、半ば本気で思う程に、あの子は私にとって普通じゃなかった。

完全な存在に、私が手を触れることによって、不完全になってしまう。

美しい星の名を持った女の子に、私は相応しくなかった。

・・・。

もう個人的には会わないと決別して数日後、例の件が起きた。

世界で一番嫌いだった女に、「辞めないで欲しい」と言われて。

揺れた。

私の心は、大きく揺れた。

振り子の法則とは、怖ろしいもので。

世界で一番嫌いに振り切れていたものが、ひとたび好きに傾けば。

一気に世界で一番好きまで、振り切れてしまう。

それからの2ヶ月は、本気で思い悩んだ。

悩み抜いた末に、あいつの送別会の時に想いは伝えた。

まぁ、上手くはいかなかったんだけど。

答えを「今じゃなきゃダメですか?」って言われた時。

すぐに「今じゃなくてもいいよ」って返せばよかったのに。

何か、答えを焦らせる雰囲気になってしまい・・・。

思い返せば、あいつに関することは全てダメだった。

仕事だということを盾にとって、大泣きもさせたしな・・・和解できたのは奇跡・・・。

本当はずっと前から許していたのに、お互い意地を張って険悪な雰囲気を出し続けていたのかも知れないけど。

とにかく謝らないと悔いが残ると思って、1年前から最終出勤日に何て言うか考えていたのに、結局チキン過ぎて何も言えず、後になってメールでぼそぼそと、謝罪と言いたかったことは伝えたけど。

1年前に考えた時は、あくまでも自分が辞める時の場合で、向こうが先に辞めることになるとは思わなかったけどな・・・あれやこれやがあって、良くも悪くも事態は急展開を繰り返した。

・・・。

あれから時間が経って、もう忘れてしまおうと思ったんだけど。

どうしてか今になって、気持ちが再燃し始めて。

全く振り切れていない自分を、改めて思い知るばかり。

長いこと、色んなことを思い悩んだけど。

まさか恋愛のことで、こんなに切なくなるとはって・・・自分でも驚いてる。

でも最近、愛するという言葉の意味が何となく解って来て。

それは本当に・・・無償で見返りを求めない、純粋な気持ちと行為。

生きていくことの意味が、自然に理解できてしまう程の情念。

膨大なエネルギーの塊で在りながら、一切を包み込む大いなる許しでも在る。

・・・まぁ、そんなこんなで。

色々と、渦巻いている訳です。

もう未練もないし・・・死んでしまおうかって、思う時もあるけど。

この先で起こる一切を、見届けていきたい気持ちもあって。

どうやら明日からも、生きていくようですよ。