美しいものだけに囲まれて暮らしたいけど、醜いものがなければ何が美しいのかも解らない。
面白いものにだけ接して生きたいけど、つまらないものがなければ何が面白いのかも解らない。
対極にあるものを知ることで、初めて私たちは相対的に物事を理解する。
プラス10の向こう側にマイナス10が存在することを知れば、その目盛を数えることで、今の状況をより鮮明に把握することが出来る。
私が望む苦しみのない世界とは、つまり無なのだろう。
苦しむこともなければ、幸福を感じることもない。
何もない。何も感じない。
空白の無間地獄。
闇もなければ、光もない。どこまでいっても、それは無だ。
無よりも苦しみのある今の世界がいいと思うのなら、それだけでもう幸せなのだ。
感性の目盛がどの位置にあったとしても、何もない世界よりは。