本命なのか本当に迷う、本迷に命を本当にかけられるのか

若菜さん、あなたのような人は二人といない。しかし現実に会うことは出来ず、実際に顔を合わすことが可能なのは別のそれっぽい女だけ。

人生だってあなたがいなくちゃ味気ない、そうでしょう?俺の人生にはただ君だけがいればいいはずなんだ。どうしてこんなに遠回りをしなくちゃならないんだ。

去年の夏、深夜。土手での運動に向かう道中での話。交番の前で男に絡まれている若い女がいたんだが、俺はその時に自転車でスルーしてしまった。若い女はちらっと俺の方を見たが、見て見ぬ振りをして横を通り抜けた。理由(という名の言い訳)は色々ある。まずそもそも交番の前だし、警察官は近くにいるだろう。パトロールに行っててもじきに戻るだろう。当時の俺は103キロのピザデブで、まともにいきり立ってる男と取っ組み合い出来るだけの自信もなかった。その男女が普通のカップルで単なる痴話げんかの可能性もある。男はだいぶ年上に見えたので、親子か親戚の可能性もある。その男女間に俺がわざわざ自転車を止めてまで割って入るべきなのか?俺はしばし逡巡し、やっぱスルーした。通り過ぎてから警察官っぽい奴の「何やってんだ」という声が聞こえ、事態は収束したように思えた(たぶん)1時間後、土手での運動を終え同じ道を通ったが、何事もなかったかのように静まりかえっていた。交番の中をちらりと覗いたが、誰もいなかった。きっと大事には至らなかったのだろう(たぶん)ちなみに去年末、地元の駅でとある事件が起きた。いつ何が起きるか解らない。

これがもし若菜さんが絡まれてたら、俺は死んでも割って入らなきゃならないんだと思う。見ず知らずの人に命をかけられるほど俺はお人好しじゃない。子供を守るためなら見ず知らずの子でも守って死んでもいい。だが、他の奴は知らん。俺が一番辛い時に誰も助けてくれなかった「その他大勢」の奴ら。だから俺も助けない。でもその時に気が変わるかも知れない。それは解らない。あの若い女はもしかしたらとある場所で顔を合わせたことのある人だったような気もする。とはいえ顔を見たことがある気がするだけで、お互いの名前は知らない。もしあの女が知り合い(のようなもの)にスルーされたことを気に病んで、深夜に男に絡まれたプラス知り合い(もどき)に助けてもらえなかったと人間不信になってるかも知れない。何で俺がここまで考えなくちゃいけないんだ。俺はやっぱり根が真面目すぎる。人生を楽に生きられない。

男女平等。けれど、男と女では腕力で圧倒的な差がある。やはり俺はあそこで割って入るべきだったのか。

俺は悪意に対して、どこまで立ち向かえばいいのか。

泣きたい。

俺は誰も助けられない。