生き残った男

人生で本気で死にかけたことが一度だけあって、それも一年前くらいの話なんだけど、そのとき死んでもおかしくはなかった。でも生き残った。なぜだろう。そこで人生のルートが分岐した。死ぬ、死ななかったけど障害が残る、普通に生き残る。俺は普通に生き残った。障害もトラウマも残らなかった。ただただ普通に生き残った。俺にこの先も生きろということなのか。

俺はあのとき死ぬと思ったし、本気で死を覚悟した。死とはこんなにも怖ろしいものなのかと戦慄し震えあがった。

あの日に死んでいったたくさんの命たち。その中に俺は入らなかった。生き残ってしまった。

毎日死にたいと思いながらも、けっきょくあの日死にきれなかった。もちろんこれは自殺ではない。目前に迫った死はあまりにもリアルで、死にかけているまさにその瞬間はなにも考えることすらできなきなかった。むしろ病院から帰ってきて家についてからが酷かった。恐怖があとで一段落してから急激に襲ってきて、あまりの怖ろしさに薬を飲もうが一睡もできなかった。

詳細は避けるが、ある日急に突発的に命の危機にさらされることになったのだ。

物事はあまりに急速で、死とはこんなにも身近であっけなく逝ってしまうものだと知った。

生き残ったことに、どういう意味があるのかは知らない。

事実はただ、俺は今日もまだ生きているということ。