あんまり言いたくない時間

この世界の果てにある塵一つさえ忘れたことのない神が。

この俺だけを忘れることなどあるだろうか。

オリンピックのスケートで、一番大事な時に二度も転倒する選手を見て。

俺は思わず声をあげ「嘘だろ」と言った。

こんなことが起きるのか。

彼女はこのオリンピックを生涯忘れられないだろう。

もちろん一番可哀想なのは、オリンピック自体に出場できなかった人たちだ。

苦しい。

まさに今日のダーリンの話。

「あんまり言いたくない時間」そのものだ。

整理してもしきれない思い。

思い出したくないし、言いたくない、そういう期間。

でもそれは俺にだってあることだ。

オリンピック選手だけが特別な体験をしている訳ではない。

リアルな世界の中で人は何かに絶望している。

嘆きの壁がいつも俺を見下ろしている。

あの時のあれが。

この時のこれが。

その時のそれが。

いつも。

いつも。

いつも。

忘れられないんだ。

人間は自分の意思で記憶喪失になることはできない。

そして人はその記憶を墓場まで持っていく。

この世にさよならする日まで。

神様がもういいよって言ってくれる日まで。